二宮尊徳翁の教える相続のコツ 「25相続のこつ(第104夜)」
若い者は家道をよく研究しなさい。
家道とは収入財産に応じてわが家を維持する方法のことだ。家を維持するのはやさしいようだが至ってむずかしいもんだ。まず早起きから始めて、勤倹に身を慣らすようにせにゃあいかん。それから、農なり商なり、家業の仕方をよく学ぶことだ。それをしないで家を相続したんでは、将棋にたとえれば、駒の並べ方もよく知らないでさそうとするようなもんで、さすたびに負けて、結局は失敗するのが目に見えとる。
もしやむなくこの修業ができないうちに相続するようなことがあれば、親類や後見人などすぐれた人を師として、いちいち指図を請うて、それにしたがうのがよい。
これは将棋を一手ごとに教わりながらさすようなもんで、それなら間違いはない。それを、うぬぼれて、人に相談もせず、気ままにお金をつかえば、たちまち相手に取られてしまう。父のこしらえた家を相続するのは、たとえば、将棋の駒を人に並べてもらったようなもんだ。将棋の道を知らんのに、すべて自分の思うままにさしたりすれば失敗するのはあたり前のことだ。
『中庸』という本の中に「愚かであるくせに自分の考えどおりやろうとしたり、身分が低いくせに勝手気ままに振舞ったり、現代に生活しながら昔からのやり方にそむく。こんな手合は必ず禍にあうだろう」とある。
「今の世に生まれて、古来からの道にそむく」というのは、後世の子孫と生まれた身でありながら先祖累代の家を不足と思い、伝来の家具を不足に思い、先祖をそしったり、勤倹の道にそむいてぜいたく三昧の生活にふけるといったことをいうんだ。昔の人はこのようにていねいに戒めてくれるんだ。よくつつしまなくてはいかんぞ。